口を開け閉めするとアゴがカクっと音がしたり、痛みがある。口を大きく開けられない。これらは代表的な顎関節症の症状です。
マウスピース矯正を検討している方の中には次の疑問や不安を持っている方もいるかと思います。
- 歯列矯正でかみ合わせを治したら顎関節症も良くなる?
- マウスピース矯正を始めたらアゴが痛くなったって本当?
今回は、これらの疑問に一つ一つお答えしていきます!
マウスピース矯正で顎関節症は治る?
結論から申し上げますと、マウスピース矯正で顎関節症が治るケースもあれば、治らないケースもあります。
その理由は、顎関節症の病態や原因は非常にさまざまで、必ずしも歯並びやかみ合わせが原因となっているとは限らないからです。
かみ合わせが正しくなくても顎関節症ではない方もいますし、かみ合わせや歯並びに問題はなくても顎関節症に悩む方もいます。
もちろん、歯並びが顎関節症を引き起こす要因になっている方もいます。
歯並びやかみ合わせのせいで、アゴがずれたり、アゴに過度な負担がかかったりして顎関節症を引き起こしてしまっている場合には、歯列矯正で歯並びやかみ合わせを正しく整えたことによって顎関節症が治るケースもあります。
マウスピース矯正でアゴへの負担が軽減されやすいケース4選
顎関節症を引き起こしやすい歯並びの中で、特にマウスピース矯正でアゴへかかる負担を軽減されやすいケースをご紹介します。
なお、ご紹介する歯並びは一例であり、この歯並びの方がマウスピース矯正で歯並び、及び顎関節症が治療できるというわけではございません。
開咬(オープンバイト)
開咬 (オープンバイト)とは主に、奥歯をかみ合わせても、上下の前歯の間に大きな隙間がある状態の歯並びです。
通常であればものを噛んだ時、かむ力は歯並び全体に分散されます。しかし開咬の場合、前歯で噛めないため、かむ力は噛んでいる奥歯のみに過剰にかかってしまい、そのぶん顎関節への負担も大きくなります。
開咬の症状が重度であるほど、それにつれて顎関節にかかる力も増え、顎関節症のリスクも高くなります。
開咬の矯正治療では、外側に傾いている前歯の向きを整えたり、奥歯を歯茎方向へ引っ込める(圧下)ように行うことが多いです。マウスピース矯正は、これらの動きを効果的に行うことができます。
また、開咬の方の多くは舌を前に出してしまうなど何らかの”舌の癖”をお持ちの場合が多い傾向にあります。マウスピース矯正は歯全体を覆っているため、前歯にかかる舌の圧力を軽減してくれたり、奥歯やアゴにかかるかむ力の負担を軽くしてくれることもあります。
※開咬の状態によっては、マウスピース矯正では治療が難しい場合もあります。また、舌の癖の改善についても、口腔筋機能訓練(MFT)などを併せて行うことが必要な場合もあります。具体的な治療方法については歯科医師にご相談ください。
過蓋咬合(ディープバイト)
過蓋咬合(ディープバイト)とは、歯を噛み合わせた時に、下の前歯が上の歯に隠れて見えないくらい、深いかみ合わせのことを言います。
過蓋咬合の方はかむ力が強い傾向があり、また、上の歯が覆いかぶさって下あごの動きが制限されてしまうため、アゴに負担がかかりやすく、顎関節症になりやすいです。
過蓋咬合のトラブルとして、下の歯が上あごの内側にあたって傷を作ってしまうことがあります。マウスピース矯正では歯をカバーできるため、かむ力の負担軽減だけでなく、口の中を傷つけることを防止する効果もあります。
※過蓋咬合の状態によっては、マウスピース矯正では治療が難しい場合もあります。具体的な治療方法については歯科医師にご相談ください。
交叉咬合(すれ違い咬合・クロスバイト)
正常なかみ合わせでは、上下の歯を噛み合わせた時に、上の歯列全体が下の歯列よりもやや外側に出ています。しかし交叉咬合(すれ違い咬合・クロスバイト)では、上下の歯列がどこかで横にずれて、下の歯が外側にきてしまっています。
また、交叉咬合では上下の歯列の真ん中(正中)がずれてしまっていることが多いです。
この場合、左右のかむ力やアゴにかかる力がアンバランスになったり、顎関節の位置のズレも生じやすく、顎関節症になりやすいです。
※交叉咬合の状態によっては、マウスピース矯正では治療が難しい場合もあります。重度で顎変形症と診断されるような場合、外科処置が必要な場合もあります。具体的な治療方法については歯科医師にご相談ください。
軽度の歯ぎしり・食いしばり
歯並びのパターンではありませんが、歯ぎしりや食いしばりなどの癖があると、アゴへ過剰な負担がかかり、顎関節症の要因になっていることがあります。
歯ぎしりや食いしばりの原因自体も非常にさまざまですが、かみ合わせの悪さが要因となっている場合には、矯正治療は効果的です。
歯ぎしりや食いしばりの症状が軽度であれば、マウスピース矯正での治療が可能です。その場合、治療中もマウスピースで歯を覆っていることにより、歯がすり減ることを予防したり、アゴの位置を安定させて歯やアゴへの負担を減らすことができます。
マウスピース矯正で顎関節症が治せない人
歯並びが原因ではない人
顎関節症は原因が非常に複雑で多岐にわたり、特定することが難しい疾患です。必ずしも歯並びやかみ合わせだけが原因となっているとは限らないため、歯列矯正で顎関節症が治らない場合もあります。
歯ぎしり・食いしばりの症状が強い人
歯ぎしりや食いしばりなどの症状が強い場合、マウスピースを壊してしまうといったトラブルが起こりやすいため、マウスピース矯正で治療を進めることが難しいケースもあります。
関連コラム:マウスピース矯正ができないケースとは?画像と共に分かりやすくご紹介します
顎関節症の症状が重度の人
顎関節やその周囲の問題を引き起こす疾患は、顎関節症だけではありません。
極度に口が開かない(25mm未満)、顎関節が腫れている、発熱がある、何もしなくても痛むなどの症状がある場合、顎関節症ではなく他の疾患が原因の可能性もあります。
正確な診断には検査が必要なため、顎関節の専門医への受診をお勧めします。
参考:顎関節症とは(特徴・分類など)|厚生労働省(外部リンク)
マウスピース矯正で顎関節症になる?
「マウスピース矯正を始めたらアゴが痛くなった」と聞いて、顎関節症になるのではと心配される方もいらっしゃるかと思います。
まれに、矯正治療中にアゴの違和感などを感じる場合もありますが、ほとんどが一時的なものです。安静にして様子を見ましょう。もし痛みが強い場合は、担当の矯正医に相談しましょう。
では、マウスピース矯正中にアゴが痛くなる原因について、どんなことが考えられるのかご説明いたします。
マウスピースに慣れていない
マウスピース矯正を始めたばかりで、まだ慣れていない時には、歯だけでなく、アゴにも違和感が出ることがあります。
ほとんどの場合、1週間ほどで慣れ、それに伴って痛みや違和感も和らいできますので、様子を見ましょう。もしも、どんどん痛みが強くなるようなことがあれば、担当医に相談しましょう。
同じようなことは、新しいマウスピースに交換した直後にも起こる可能性があります。しかしながら、マウスピースの交換を繰り返すうちに痛みに慣れ、治療の後半にはさほど気にならなくなることが多いです。
治療途中の一時的なかみ合わせ不良
歯を移動させている途中の段階では、どうしてもかみ合わせがあわない期間が生じてしまうこともあります。その場合、アゴへの負担が一時的に増して痛みがでることもありますが、治療の進行とともに改善する場合がほとんどです。
マウスピースをはずしている時間が長かった・中断した
マウスピースを長い時間はずしていたり、中断してしまうと、かみ合わせがずれたままということもあります。かみ合わせの悪い状態が続くと、アゴに負担がかかって、痛みなどが出てくることもあります。また、歯の一部が強く当たっていたりすると、その歯や歯ぐきに痛みや炎症が起こる場合もありますので注意が必要です。
また、マウスピースをはずしている時間が長いと歯が動いて後戻りを起こし、再度マウスピースをはめたときに矯正の力が強くかかるため、歯やアゴに痛みを生じる場合もあります。
治療に対するストレス
矯正用のマウスピースは、非常に薄く違和感が少なめではありますが、人によってはわずかな違和感がストレスとなることもあります。また、治療に対する不安や、歯の移動などによる痛みなどがあると、それらがストレスとなって、無意識に歯ぎしりや食いしばりをしたり、強くかみしめている可能性もあります。その結果、アゴに負担がかかって痛みがでてくることもあります。
親知らずの抜歯後
矯正治療開始前に、親知らずを抜くことがあります。親知らずはもっとも顎関節に近い部分にありますので、親知らずの周囲の炎症は、アゴの痛みにも関わってきます。
特に下の親しらずがはえている部分には、アゴに繋がる神経が通っていたり、抜歯の際にアゴの骨あたる部分を少し削ることもあり、抜歯後に口が開きづらくなったり、アゴが痛くなったりします。
ほとんどの場合、抜歯後の経過とともに1~2週間ほどで治まってきますが、もし痛みが強い、骨にしみるような痛みがあるといった場合は、炎症を起こしていることもありますので、抜歯をした医師に診てもらいましょう。そして矯正治療は、痛みが落ち着いてから開始しましょう。
マウスピース矯正中にアゴが痛くなった時の対処法
安静にする
マウスピース矯正中の痛みは一時的なものがほとんどであるため、わざとアゴを鳴らしたりせず、安静にしましょう。もし痛みが強くなるようであれば、担当医に相談しましょう。状況によっては、顎関節の治療を優先したり、様子を見ながら矯正治療をしていくこともあります。
マウスピースがきちんとはまっているか確認する
マウスピースが正しく装着できていないと、正しく歯が動かないだけでなく、歯やアゴの痛みに繋がることもあります。心配な場合は、歯科医院で正しく着脱・装着できているかチェックしてもらいましょう。
意識的に食いしばらないように注意する
通常であれば、お口を閉じた時、上下の歯はくっついていません。しかし、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、口を閉じても上下の歯を無意識にかみ合わせてしまっていることが多いです。
意識的にかみしめないで、すき間をあけるようにすることで、アゴへの負担が軽減されます。目につくところに付箋を貼ったり、携帯電話のリマインド機能を利用するなどの方法が効果的です。
アゴのマッサージをする
かむ時に使う筋肉の周りをマッサージすることで、筋肉の緊張をほぐす効果があります。具体的には、こめかみや、エラの周り(かんだ時に盛り上がる部分)をくるくると円を描くように優しく動かしていきます。気持ちいいと感じる程度の力で行いましょう。
ただし、痛み強かったり、腫れなどがある場合にはマッサージは避け、担当医に相談しましょう。
顎関節症でもマウスピース矯正はできる?
顎関節症の症状があっても、軽度であれば様子を見ながら矯正治療が可能な場合もあります。
しかし、痛みや開口障害などの症状が強い場合、マウスピース矯正にかかわらず、矯正治療を行うことが難しく、顎関節症の治療を優先することもあります。
その場合、より専門的な検査や診断のできる、顎関節の専門医への紹介・受診が必要なこともあります。
顎関節症の原因
顎関節症の発症のメカニズムについては、まだ不明な点が多く、さまざまな要因が組み合わさって症状が起こると考えられています。
特に原因として挙げられるのは次の5つです。
- かみ合わせの問題
- 悪い癖や姿勢
- 精神的ストレス
- 外傷(ぶつけるなど)
- その他の疾患
特に悪い癖や姿勢は無意識に行っているものがほとんどです。
次のチェックリストを確認してみましょう!
- 頬杖をよくつく
- 何もしていない時にも上下の奥歯が噛んでいる
- 舌の側面がギザギザしている(食いしばりの可能性)
- 朝起きるとアゴが疲れている(夜間歯ぎしりの可能性)
- 歯やかぶせ物がすり減っている
- 食事の時に片側ばかりでかんでいる
- 横を向いて食事をしている
- ガムや硬いものを頻繁に食べている
- うつ伏せ寝や同じ側をいつも下にして寝ている
- 猫背や片足重心
- 片側ばかりでカバンを持っている
かみ合わせや顎関節症の治療を行ってアゴの状態が良くなったとしても、原因となる悪い癖が残っていると再発してしまうこともあります。もしこれらの中に当てはまる事項があれば、意識的に改善することが顎関節症の改善と予防の第一歩です。
まとめ
マウスピース矯正でかみ合わせを治療すると、顎関節症が改善されるケースもあります。ですが顎関節症は様々な要因で発生するため個人差が大きいです。
歯並びやかみ合わせが顎関節症の一因となっている場合、矯正治療で症状の改善が図れることもあります。特にマウスピース矯正特有である、歯全体をマウスピースで覆っていることで、より効果的に治療が進められるケースもあります。
しかし一方で、矯正治療やマウスピース矯正で顎関節症が改善されない場合もあります。顎関節症の症状が重度であれば、矯正治療よりも顎関節の治療を優先したほうが良いこともありますので、専門医への受診をお勧めいたします。
マウスピース矯正を始めてからアゴが痛くなったということは比較的まれで、あっても一時的なことがほとんどです。心配な場合には担当医に相談しましょう。
ご自身の歯並びがアゴに負担をかけているのか、マウスピース矯正は可能かなどが気になる方は、まず一度、歯やアゴの状態をチェックしてもらいましょう!
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・装置装着後と通院における装置調整後は1~3日ほど痛みを伴うことがあります。
・歯の移動が大きい症例などには不向きです。
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